「やっと好きな相手とゆっくり出来るけ
「やっと好きな相手とゆっくり出来るけぇ家に居るんやない?」
セツは何もおかしな所はないと笑った。それでも三津は腑に落ちなかったから入江に視線を移した。
「そうやなぁ……。確かに戦終わってのんびりしたいんやとは思うけど,ここまで屯所にも寄らんし散歩しとる姿見んのも珍しいかもしらん。」
だがそこに何か裏でもあるのか,と言われたらそんな感じはしないと言った。
「私の考え過ぎかぁ……。」
三津はうーんと唸り声を上げながら首を傾けた。
「そこまで三津が気にするって事は他に何か要因があるんやない?姿が見えん以外に晋作について気になる事。」
入江に言われてここ最近を思い返した。そこであっ!っと声を上げた。
「ここに居る時ご飯残してました。一回やなくて何回か。
その時はおうのさんの所でいっぱい食べてるんやろなって思ってたけど,もったいないが口癖で食事にも毎回感謝してる高杉さんが残すなんて珍しいって思ってたんです。」
そうだ,最初の違和感はそこだと思い出した。https://www.easycorp.com.hk/zh/trademark それにはセツと入江も顔を見合わせて目を瞬かせた。
「お三津ちゃんよう見ちょるんやね。確かに高杉さんがご飯残すのは今までになかったかもしれんね。」
二日酔いで食欲が無くとも用意された物は残さず食べていた。その後逆流してたのは目を瞑る事とする。
「私らに体調不良を知られたくなくておうのさんの所に居ると?」
入江はにわかに信じ難いと言う顔で首を傾けて三津を見た。
「それは本人に聞かんと何とも……。いやっ私の気にし過ぎなだけならいいんですっ!あれですかね?私も高杉さんの賑やかさが恋しくて変に気にしてるんですかね!?」
「あー確かにあの賑やかさは独特やけぇね。高杉さんはいつもみんなの中心におる人やけぇ。」
セツも何だかんだみんな高杉さんが好きなのよと目尻を下げた。そして間違いないと三津と二人で笑い飛ばした。
嫌な予感ほど当たるもの。その嫌な予感を現実にしたくなくて,三津は必死になかった事にしようとした。
入江は顎に手を当ててそんな三津を黙って見つめた。
『三津の勘は鋭いし当たる……。今回は外れたらええんやけど。』その晩,三津と入江は夕餉の後に山縣の晩酌に付き合った。三津は呑まされる覚悟で付き合ったのに実際は違った。
「どいつもこいつも結局女か。」
「お前も女買うやろ。」
山縣が一人で酒を呷り愚痴を吐く。それに入江と三津が付き合っていた。
入江が面倒くさい奴やなとぼやきながら酒を注いで,山縣は一気にそれを飲み干す。ひたすらそれの繰り返しだった。
「一番女と縁遠いと思っちょったお前も何や嫁ちゃんに絆されて尻追っかけ回してよぉ……。」
「絆されちょらん。惚れただけ。悪く言うな。」
『これは私責められてるん?』
三津はただ正座で背筋を伸ばし,二人のやり取りに耳を傾けていた。
山縣の呑む速度はいつもより速くて,顔を赤らめ目が座るのにそう時間はかからなかった。
『絡み酒の人やからこのまま黙っとこ……。』
それを理解して入江が率先して山縣の相手をしてくれてるのだと気付いた三津は空気になろうと決めた。このまま酔い潰れるのを待とうと思った。
「高杉も女の所行ったっきりやし。薄情やのぉ……。」
「やっぱ寂しいんですね。」
空気になろうと決めたばかりでその決意は呆気なく崩れた。座った目に捉えられて三津の背中に嫌な汗が伝った。
「仲間が側から離れてくんは寂しい。減ってくんはもっと寂しい……。」
変な絡まれ方をされると思った三津は,俯きながらちびちび酒を口に含む山縣をただ見つめるしか出来なかった。
『私の思ってた寂しいとは違った……。』
もっと深かった。
計り知れない困難を味わって乗り越えて,どん底に叩き落とされて這い上がってやっと先の戦で勝利を掴んだ。
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