「険しい顔してどうしました?」

「険しい顔してどうしました?」

「険しい顔してどうしました?」

外で幾松が出てくるのを待っていた久坂がすっと傍に寄る。

「要件は夜お話します。

私も暇やあらしまへん,まとめてお話しますさかい桂はんと一緒に来はったらよろしい。」

『機嫌悪い…。』

明らかに様子のおかしい幾松にそれ以上話かけられず,頬をぽりぽりと掻きながら苦笑いでそっと離れて行った。

泣き疲れて眠ってしまった三津の元に,トキが顔を覗かせたのは日が暮れて店も終わった頃。

「三津,大丈夫?」https://www.easycorp.com.hk/zh/trademark

「ん,元気…。」

目を擦りながら瞼を押し上げた。

行灯の仄かな灯りが揺らめいて見えた。

「明日からお店手伝うから。」

大きな欠伸をしながらトキに笑いかけるが,トキは首を横に振った。「何で?もう大丈夫やで?」

「そら良かった。でもいいねん,あんたは表に立たんと家の事しとってくれたらいいねん。」

トキは穏やかな笑みで三津の頭を優しく撫でる。

「え?」

「ごめんな…私らが無理させ過ぎたんやわ。

強引に外に出そうとしてもたから…。でももう大丈夫や,嫁に行くまで傷一つ負わせへんから。」

「えっ?えっ?何言ってるん?」

こんな事を言うなんてトキらしくない。

「いいから言う通りにしとったらいいねん。

お粥,作ってくるわ。」

それだけ告げるとトキは満足そうに笑みを深めて部屋を出た。

『違う,あんなん言うのおばちゃんらしくない…。』

いつもみたいに接して欲しかった。

甘やかさへんって厳しく言って欲しかった。

三津は弾かれたように部屋を飛び出した。

「おばちゃん私なら大丈夫!もう甘えて駄々こねたりせんし!!」

だから前みたいに過ごさせて,前みたいに扱って。

懇願の眼差しをトキの背中に向けた。

「はいはい,年頃の女子がそんな大声出して走らんの。」

振り返ったトキは怒鳴ってはくれなかった。

『何で?』

トキは優しい顔をしてくれてるのに,三津は泣きそうになった。

「ごめん,お粥…いらんっ!!」

三津の胸は押し潰されそうになった。

苦しさに耐え兼ねて部屋へ逃げ帰った。

どうしてトキがあんな風に変わってしまったのか。

これも自分のせいなんだろうか?

『私はどこまで周りに悪影響与えんねやろ…。』

せっかく帰って来れたのに,居場所を取り上げられてしまったようで,孤独感が這い上がってくる。

自分がいつものように振る舞えば,自然とトキもいつものトキに戻るかも知れない。

そう考えた翌朝ーー。

「おはよう!今日からまた頑張るわ!!」

まずは店先の掃除から。たすき掛けをしていざ行かん。

表に出ようと意気込んだ。

「ええって三津!お前の仕事は中の事や!」

その前に立ちはだかった功助に止められてしまった。

「おじちゃんまで…。」

「無理に元気出さんでもええねん。空元気で誤魔化そうとするんはお前の悪い癖や。

ほら,掃除なら部屋の掃除しとき。」

二人して外に出してくれないつもりらしい。

「空元気ちゃう…。」

ぽつんと一人取り残されてから,三津は力なく吐き捨てた。店先は賑やかだ。だけどその喧騒も三津には遠く感じる。

居間で正座をして,遠巻きにその様子を覗き見ていた。誰にも姿は見られないようにして。

「御免下さい。」

透き通るような声が暖簾をくぐって入って来た。

両手に風呂敷,凛々しい中にも品のある笑みを携えた青年。

「すみません,お三津さんの荷物をお届けに上がりました。」

「あ,あんたはん新選組?」

その容姿は武士には見えない美しさがあった。

「新選組…?」

その名を聞いて三津は店に飛び出していた。

「あっみっちゃん!!」

久々に姿を見せた三津に客達は色めき立った。

「ありがとうございます!でも私じゃ持ちきられへんから部屋まで運んでもらえます?」

三津はその隊士の腕をぐっと掴んで離さない。

「はい,喜んで。皆さんが三津さんへ渡して欲しいと見舞いの品まで持たせるから重くて重くて…。

とてもじゃないけどお三津さんには持たせられません,このまま私が運びますよ。」

そう言って隊士はにっこりと花のように微笑んだ。

「こっち!」

いい話し相手を見つけた。三津はそんな気持ちで彼を中へ引きずり込んだ。

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