濃姫のに、じっとりとした脂汗が浮き出る。

濃姫のに、じっとりとした脂汗が浮き出る。

ねた。

濃姫のに、じっとりとした脂汗が浮き出る。

火がついたように体中が熱くなり、一瞬の内に、口の中が異様なほどいてゆくのを感じた。

まるで蛇にまれた蛙のように動かない妻を見て、信長はふっと鼻で笑った。

「その様を見る限りでは、図に当たったと思うて良いようじゃな」

「……」

「儂の目が節穴ではないことは、そなたならばよう存じているはずじゃ」

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「勘違い致すな。儂は妖術使いではない故、そなたが何を企んでおるかまでは知らぬ。そなたがやたらと、

己の上洛を隠すような素振りを見せる故、どうしても自分が京へ参ったことを知られたくないのであろうと、左様に思うたまでよ」

体面を気にしてだけの理由ではあそこまでせぬと、信長はどこか得々として言った。

濃姫は返答をっていたが、この夫をし通すのは、経験上不可能と判断したのか

「……さすがは上様、何もかもお見通しなのでございますね」

めの吐息が漏らしながら、半ば強きな態度で告げた。

信長は伏し目がちにかぶりを振る。

「いや、何もかもではない。先ほど言うたように、そちの企み事までは知らぬ。──故に、何をしたのかきたい」

「……」

「答えよ。どんな悪巧みじゃ?」

「れながら……それには答えられませぬ」

濃姫はひたと信長を見据えながら、ゆるやかに頭を垂れた。

「儂がいておるのだ。答えよ」

「畏れながら、に上様のせであろうとも、答えられませぬ。今は」

末尾にあえて添えられた一言に、信長は貪欲に食い付いた。

「今は…。ではいつ訊かせてくれるのだ?」

「此度の茶会をりなく済ませ、我々が無事にこの本能寺から出られましたら、その時にお話し致しましょう」

「お濃」

「されど強いて申すのならば、その悪巧みも、我らが娘・胡蝶の為。引いては、上様の為にございます」

「胡蝶と儂の為じゃと?」

濃姫はこっくりと頷いた。

「それはどういう意味だ?」

「ですから今は話せませぬ。──なれど、じきに分かります。じきに」

意味深に言って、濃姫は含み笑いを漏らすと

「明日の茶会は、お言葉に甘えて人前には出ぬことに致します。されど、高貴なる人々を集めての茶会、

それも上様が主催とあれば、大層 華やかな席になりましょうから、隠れて拝見させていただきまする」

「お濃、そなた何を考えて…」

「ささ、早ようお召し上がり下さいませ。御膳が冷めてしまいますよ」

濃姫はまた一つ笑みを浮かべると、何事もなかったかのように食事を続けた。

判然としないことが嫌いな信長は、答えを述べない濃姫に、内心苛立ちを覚えていた。

もしもこれが一介の家臣ならば、信長は否応なしに相手を斬り捨てていたであろう。

しかし、目の前の相手はが正室であり、斎藤道三の娘。

信忠の養母にして、胡蝶の生母。

そして不覚にも、自身がこの世で最も愛する女人なのである。

信長のように強情で偏屈な性格の人間ほど、一度 興味を示したものへの執着は深い。

長年ってきた二人の信頼関係を考えても、信長が濃姫を斬ることはまずないだろう。ろ濃姫は、その事実を理解しているからこそ、平然と怖いもの知らずな振る舞いが出来るのかも知れない。

結局 信長は、大きな疑念を抱えながらも、それ以上追及を重ねることは出来なかった。

夫婦はそのまま書院の隣室を寝所として、これまた久々に寝間を共にした。

夜九つ(深夜0時)。

濃姫は高い天井を見つめながら、隣で規則正しい寝息を立てる夫の横顔をちらと見やった。

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