部屋に踏み込んで徐に箪笥の引き出し
部屋に踏み込んで徐に箪笥の引き出しを開けてみた。三津の着替えや荷物が一式無い。
そしてふと文机に目が行った。
「嘘だろ……。三津……。」
そこには桂が初めて三津に送った簪がぽつんと置かれていた。一瞬で血の気が引いた。
それを手に桂は部屋を跳び出した。
「セツさん!最後に三津を見たのはいつですか!?」
凄い剣幕で両肩を捕まれセツは目を見開いたまま硬直した。
「ちょっと木戸はん!どないしたんよ!」 https://www.easycorp.com.hk/zh/trademark
幾松が落ち着けと二人の間に割って入ったが桂の様子が尋常じゃないのもよく分かった。
「三津が!三津が居ない!荷物も全部!あの子の物が全部ない!」
その騒ぎを聞きつけた高杉達もどうしたどうしたとわらわら集まってきた。「木戸さんどうした?」
「三津が居ない。荷物も全部ない。」
高杉の問に桂は矢継ぎ早に答えた。動揺が隠しきれない。
「は?でもそんな荷物抱えて歩いちょったら嫌でも目につくやろ。」
だが高杉が誰か見てないかと聞いてもみんな首を横に振る。
「最後にお三津ちゃん見たのはお昼や。おにぎりあるから食べりって声かけたそ。そしたらありがとうございますって。」
セツの言葉に赤禰がピンときた。
「みんなで昼休憩しとる間に出たんやろ。昼はみんなで縁側に集まって飯食うけぇ目につかんようにここ出られる。」
「ってことはもうここ出て結構経っちょるぞ。でも何で急に行方くらます様な真似……。」
高杉が訳が分からんと腕を組むが入江は桂の胸ぐらを掴んだ。
「昨日何があった。」
「……私のせいだ。」
「何があったか聞いとるそ!言え!」
入江の気迫に誰も止めに入れなかった。それに三津が居なくなった原因を,二人の間に起きた事実を知りたい。
「私のせいで三津が悩んで苦しんでるのが見ていられなくて,自由にしてやりたくて……もう終わりにしようと……告げた。」
入江の怒りは沸点を越えた。
「歯食いしばれっ!」
怒鳴って桂の左頬を殴りつけた。
「頼むみんな,日が落ちるまで手分けして探してくれ。海,山,町思いつく限り……。」
入江の頼みに隊士達はすぐに散り散りに屯所を出た。
「晋作私は馬を借りる。三津が行くとしたら萩しか思いつかん。やけぇ一応その道中行けるとこまで行く。晋作はここで待ってみんなからの連絡待ってくれ。」
「分かった。」
「幾松さん,悪いけどそこの軟弱骨無し野郎の手当しちゃって。」
入江はへたり込んだ桂に向かって吐き捨てて阿弥陀寺を飛び出した。
「何で終わりにしようなんか……。」
幾松は手拭いを切れた口元にそっと当てた。
「三津を愛してるから……。好きなのに苦しめるぐらいなら自由にしてやった方が……。」
「阿呆!何で勝手にそう思うんよ!」
「やっぱり違うと思ったからだから話し合いに来た……でも遅かった……。今度こそ三津は戻らない……。もう……。」
桂は置き去りにされた簪を握り締めて涙を流した。
入江も焦りと不安を抱えて馬を走らせていると,前方で道を塞ぎ両手を振る白石の姿があった。
「入江君っ!止まって!止まって!」
「白石さん!三津見ませんでしたか!?」
「やっぱり黙って飛び出したんだね……。私と一緒に来てくれないか?」
みんなには内緒でと入江の耳元で囁いた。ひとまずうちに来てくれと言われた入江は馬を人目につかない場所に繋いで白石と共に白石邸へ向かった。
「白石さんもしかして。」
「うん,家にいる。荷物抱えて泣きながら町を歩いていたから心配で連れて帰った。
もう居る意味がない,帰る場所がない,でもみんなに言わないでってずっと泣いてる。とにかく入江君には知らせようと思って。」
「ありがとうございます。」
白石は入江を家に上げてこの部屋にいると静かに案内した。
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