御簾の留具、欄干の手すり

御簾の留具、欄干の手すり

御簾の留具、欄干の手すり、畳の縁、戸襖の取っ手に至るまで職人の技が光っている。

加えて、薄暗い箇所の多かった那古屋城に比べて、余計な間仕切りを排した清洲城内がどこも明るかった事も姫にとっては好印象であった。

「聞けば姫様の御為に、殿が自ら御座所の家具やら調度品やらを見立てて下されたとの事。ご拝見致すのが楽しみにございますなぁ」

「ほんに。“儂の正室に相応しい、雅やかな設えに致した”と言っておられたが……はてさて、どのようなお部屋に仕上げて下されたのやら」

「きっと、姫様へのご愛情に溢れた暖かみのあるお部屋にございましょう。汗ばむ夏の夜にも、思わず足を運びたくなるような」

「ま、いやだ、三保野ったら」

濃姫は気恥ずかしそうに笑いながら、居室の襖をサッと横に引くと

「 !? 」

目前に現れた正室の部屋を見て、姫も侍女たちもあんぐりと口を開いた。虛擬辦公室及註冊地址| 節省租金提升形象| easyCorp公司易

濃姫は一瞬 ここが自分に当てられた居室ではなく、宝物殿(ほうもつでん)か何かの間違いであろうと思った。

別に室内の壁中に金箔が貼られている訳ではなかったが、あまりにも華美に淫し過ぎているのである。

銘木・伽羅(きゃら)の柱があしらわれた床の間には、名匠の作と思われる青花青磁の花瓶と、霊鳥の鳳凰が見事に描かれた掛軸。

違い棚には光琳蒔絵の文箱や針道具、硯箱、十火主香枦などが装飾品の如き輝きを放ちながら並んでいる。

明るい朱色の毛氈が敷かれた上座の左右には、豪奢な金爛の几帳が置かれ、その右奥には無数の鶴が飛び交う紙本金地著色の六曲屏風が大きく広げられていた。

次の間にも金糸銀糸が惜しみ無く使われた織打掛が何着も衣桁にかけられていたし、

その隅の方に、黄金の茶器や香箱などが平然と置かれているのを目にした時には、さすがの濃姫も「おっ」となった。

とにかく何もかもが度の過ぎたきらびやかさであり、濃姫はまるで仏壇の中にでも納められたような気分になっていた。

そんな姫を他所に、お付きの侍女たちは

「何と豪華絢爛な!」

「私、ここまで贅の尽くされたお部屋を見るのは初めてでございます」

「何とお羨ましいこと」

世辞なのか本気なのか分からなかったが、まるで博物館を訪れた子供のように、うきうきとして部屋中を見て回った。

信長にしてみれば、室内を豪華に飾り立てることで、姫を驚かせ、尚且つ清洲城主となった自分の威光を示したかったのだろうが

──冗談ではない。これでは派手過ぎて目が痛とうなるばかりじゃ…

というのが濃姫の本音であった。

新しきもの、派手なものを好む信長の趣味も反映されているのであろうが、

自身の御座所が安んじて居られる場所でないというのは、常に奥にいなければならない姫にとっては大問題であった。

「姫様…、もしやお部屋が気に入りませぬか?」

濃姫の浮かない顔を見て、侍女のお菜津が察したように声をかける。

姫は困ったように微笑った。

「部屋の佇まいは気に入ったのじゃがのう。広うて、格式があって。──なれどこれらの家具は…」

言いつつ、何気なくその身を前庭の方へ向けてみると

「何とまぁ、これは極端なこと」

庭を見るなり、濃姫は思わず眉をひそめた。

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